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2015年9月12日土曜日

優等生シンドローム

常務登場から不穏な空気を漂わせていた島村がとうとう爆発しましたね。

実際、色々と身につまされる話だと思うので、道徳の時間か何かで放送してもいいんじゃないですかね。
シンデレラガールズを毎週見る授業。え、なにそれずるい。

といったところで、今回のエントリではニュージェネレーションズの三人のこれまでをざっくり振り返りながら、島村卯月の陥っている状況をもう一度確認してみたいと思います。

アニメは最新話の内容にまでがっつり触れていきますので、ネタバレその他を気にする方々はご留意ください。

●プロジェクト始動から未央の離脱まで

今回は時系列順に追っていきましょう。

いつかのエントリで話題にしましたが、プロジェクトの始動時点で卯月、凛、未央の三人は設定している目標に大小様々な違いがあります。

一番大きく違ったのは凛。彼女はスカウトによって今回のプロジェクトに参加しました。なのでアイドルであることに執着はなく、プロデューサーの語る「夢中になれる何か」を求めています。アイドルが目的ではなく手段なんですね。
なので、未央の離脱の時点で夢中になれる何かを探す手段として間違っているんじゃないかと考えて自分も距離を置いたんじゃないでしょうか。

一方の卯月と未央は両方オーディションを受けて合格しています。なので、彼女らはアイドルになりたくてここにきています。なので二人とも一番最初の目標は達成しているんですね。

ここから未央はどんどんと新しい目標を見つけていきます。美嘉のバックダンサー然り、その後の活動然り、デビューライブ然り。まあ、その目標設定を誤って高みを見過ぎた結果、現実に打ちのめされて一時離脱となってしまうわけですが、その後、プロデューサーにライブに来ていたお客さんの姿を見せてもらったことですぐにスイッチを切り替え、新たな目標を定めています。
実のところ、彼女はこの時点ですでにマイルストンを置いて次へ進むことに関しては天才的です。この点を見抜いてリーダーに選んだのだとすれば、プロデューサーの見る目は相当のものですね。

卯月はプロジェクト参加を打診された時点ですでに区切りとなる目標を持っていました。CDを出す、ライブをする、テレビに出演するなどなど。なので、未央の掲げた夢の熱に浮かされた状態でも、自分の中に目標がありました。だから「最後まで笑顔でライブできませんでした」という自省するセリフにつながっていきます。

この時点で、一番強度のある目標が設定されていたのは卯月だったと言えるでしょう。漠然としている凛、振れ幅が大きい未央と違い、一歩一歩着実な現実に則した目標設定ができているからです。多分、彼女はアイドルのことを見てきていて、アイドルがデビューしてからの鉄板戦略が頭の中に入っていたのでしょう。だから、それをなぞっていくような状況にマッチしていたのです。

●再始動から夏のライブまで

ここからは他のメンバーにスポットが当たっているので詳しい話はわかりません。

というか、あまり覚えてません。1stシーズン終わって結構間が開いてるもんね。仕方ないね

ですが、ここでは着実に仕事をこなしていき、アイドルとして活躍していたであろうことは推測できます。ここでアイドルとして経験を積み上げてきたからこそ、雨上がり客もまだまばらな舞台へのトップバッターという大役に怯むこともなく、間違った目標設定に苦しむこともなく飛び出していけた。

この時点ではまだ卯月の抱える問題は顔を出す暇がなかったと考えられます。

●常務着任から秋のライブまで

常務が新たにアイドル部門の長に収まったことで、346プロダクションに大きなうねりが生み出され、もちろんシンデレラプロジェクトも窮地に立たされました。
手始めに、新たな企画を提示しなくてはいけなくなったわけですが、この時、プロデューサーを少しでも手助けするためにとプロジェクトのメンバーがせっせと企画を立案しましたね。
この時、重要なポイントとして覚えておきたいのは、業績を上げるための企画、346の名に相応しい企画は放っておいても海外帰りのオバさんが立ててくれるということ。なので、プロジェクトのメンバーは安心して自分たちのやりたいことを遠慮無く、上げることができるという状況でした。

当然、未央も凛も卯月も企画を考えます。考えるのですが、卯月だけ真っ白。
というのもすでに、この時点で彼女が思い描いてきたアイドルって言うのは、おそらくですがすでに達成されきってしまっているんですね。ライブしかり、テレビ出演しかり。

夢中になれる何かを追い続けている凛は果てのない目標に向かって進んでいる途中。なので、自分の根源から進みたい道が見えてくる。
次々とマイルストンを設定して着実に進む未央はプロジェクトのピンチを打破するためであったり、自分でやりたいことであったりを見つけてくる。
思い描いてきたアイドルを追いかけてきた卯月にはそれがなくなってしまった。追い続けてきた夢に追いついてしまったので二進も三進も行かなくなってしまっているという印象です。

これは凛が奈緒と加蓮に何かを見出しトライアドプリムスとして歩き出し、未央が自らソロ活動を開始したことで顕著になります。
卯月は何かやりたいことはありますかというプロデューサーの問いかけに答えられず、美穂とのユニットの提案に頑張りますと答えましたね。

三人ともきっかけは外から与えられています。凛は美城常務に見出されて。未央は提示されたトライアドプリムスという新たな道に揺れ動く凛を見て。卯月は、先ほど言った通りプロデューサーに言われて。です。
ここで凛と未央は自分の判断で一歩を踏み出したのに対し、卯月はプロデューサーに手を取られて次の足を出しただけに過ぎません。

結果、凛も未央も進むべき道を見つけ歩きはじめました。
一方の卯月は美穂との活動の中で何かを見つけることもできず、未だ立ち尽くしています。

●そして、卯月はどこにいく?

考えてみれば、島村卯月は大変な努力家と言えます。
おそらく彼女は要領があまりよくありません。特にダンスの習熟にはニュージェネレーションズの三人の中では一番時間がかかっていたように思います。それでも彼女はめげません。
思えば、それは訓練所時代から変わっていない彼女の強みです。たとえ周囲が絶望して逃げ出しても、アイドルを目指して頑張り続けてきました。
彼女は設定された目標に向かってがむしゃらなまでに努力し続けられるのでしょう。

そう考えると、強烈なリーダーシップでアイドルたちを導いていくスタイルの美城常務との相性は抜群だったかも知れません。一方、各個人の個性を尊重し、歩みをサポートする方針のプロデューサーとの相性はあまり良くないと言えるでしょう。

それでは、シンデレラプロジェクトのメンバーに選ばれたことが不幸の始まりだったのでしょうか?

いいえ。それは違います。
美城常務との相性が良いと言ってもそれは中短期的な視点の話です。いつまでも常務が旗を振って道を示し続けられるとは限りません。いつかどこかのタイミングで卯月は自分の足で立ち、進むべき道を選ぶタイミングは来ます。
アイドルという仕事を続ける限り、自分という船の舵を握ることは必須といえるでしょう。その機会を延々奪い続け、どこかのタイミングでいきなり返してくる美城常務よりは、そっと寄り添って手助けしてくれるプロデューサーの方が長期的にみれば良い。

ラスト、時計の針は十二時を示しました。これはシンデレラにかけられた魔法が解ける時間と重なります(厳密には、昼夜逆ですけど)。一夜の夢を終えたシンデレラはまた灰かぶりの生活に戻っていき、王子様に見つけられるのを待ちました。
ですが、卯月を探してくれる王子様はいません。彼女は自らの足を持って次の舞踏会を見つけなければいけないでしょう。

卯月はこれから何を見て、何を考えるのでしょうか?
そしてどんな一歩を踏み出すのでしょう。

ますます盛り上がるシンデレラガールズ、今後も楽しく見守っていきたいですね。

●おまけ

終わってもいいんですけど、道徳の授業か何かで見せたほうがいいって言った理由を補って置こうかなと思います。

学校教育ってそのスタンス上、どうしてもハードルを超えられるか超えられないかで評価されがちな部分があるように思います。その結果、手段と目的が入れ替えってしまうみたいなことが至るところで見られるのではないかなと。

人の助けになりたいという崇高な精神を持っていて、そのためにボランティア活動に精を出す人は素晴らしいと思います。だから、ボランティア活動に従事していた人が評価を受けると言われれば当然の話だなと言えるわけです。
ところが、あるタイミングでその逆転が起きて、ボランティア活動をしていると評価が上がるから活動するみたいなことが公然と行われるようになってきています。

評価される人物というものがあって、その姿に自分を合わせていく。みたいな。
答え合わせ型の評価に慣れすぎて、生き方に適応してしまったのでしょうか。

こうなると、評価を得るためにボランティア活動をすることが重要なので、この活動が社会にどういう貢献をもたらすかは興味の埒外になります。なので、活動の真意がわかっていないし、それを踏まえて今後どうしていったらいいかも見えてこない。
ゴミを拾うことが目的となっていて、環境の美化なんて微塵も考えられていない。美化のことを考えればそもそもゴミが集まってくる根源を解明すべですが、議論が至らない。みたいなことは、思い当たる節が誰しもあるのではないかと思います。

これらはいずれも誰かの出した課題をこなしたり、誰かのつくりった借り物の器に自分をぴったり収めることに終始しているだけで、自分のやりたいことやあるべき姿などが見えてきません。

これって卯月が置かれている状況にどこか似ていませんか?

島村卯月が直面している問題は彼女だけの個人的な問題ではなく、また、アイドルという特殊な立場が生み出したのでもなく、今を生きる誰もが直面しうる普遍的な問題なのではないか。
だからこそ、学校の授業の題材として取り上げてみても面白いのではないか。

そんな風に考えた次第です。