虚木零児です。
先日、中段という呼称は歴史の当然であって不思議なことはないっていう、もうほとんど個人攻撃みたいなエントリーを上げたじゃないですか。それ以来、格闘ゲームについていろんな思い出が蘇ってきたんですよ。昔は投げシケなんて気にしたことなかったのに、今は投げ漏れで出る技が強いか弱いかみたいな観点を持つようになったなぁ。みたいなことをね、考えていたんですよ。
で、気づくわけですよね。
……シケってなんだ?
投げシケっていうのは、格闘ゲーム用語で構造的には投げ+シケです。
投げは前回もお話したとおり、ガード不能の特殊な攻撃手段のこと。スト2からしばらくは相手と密着状態でレバーを倒しながら強か中の攻撃ボタンを押すことで投げ技になりました。リュウなら背負投げ、ガイルならドラゴン・スープレックスといったいわゆる投げ技であったり、エドモンド本田の鯖折りやダルシムのヨガ折檻……? みたいな、掴み技と呼ばれるような攻撃がありました。投げ技は固定ダメージ、掴み技はレバガチャでダメージが増減するという特徴がありました。どちらも相手をロックする演出があり、画としては掴んでいるように見えていたのが特徴です。
時代が進むに連れて投げ周りのシステムもブラッシュアップされていき、攻防などが追加されていくことになります。
例えば投げ抜けが実装されました。初期の頃は投げ受け身と呼ばれていて、ダメージを軽減しつつ、ダウンを回避して着地するような処理を行っていましたが、現代では掴みかかってきた相手を振りほどいて間合いを離すようなのが一般的になりました。スト3でグラップディフェンスと名付けられたのがきっかけで、略してグラップと呼びます。
組み技(グラップル)に対する防御(ディフェンス)をグラップと略するのはいかがなものかという意見はわからんでもないですが、そんなことを言うのならこれからはピアノのことを"強弱のつけられるチェンバロ(クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ)"と呼んでください。もちろん、定期券のことを二度と定期って言わず、「あ、携帯忘れた!」って言った友達に「携帯は概念だろ。携帯電話って言え」ってキレてくださいね。参考:ピアノの当初の名前が長すぎる件
このグラップ、現在も多くのゲームにおいて投げ入力で発動します。相手の投げが来そうなタイミングでこちらも投げを入れるというのが、今日のゲームのよくある駆け引きになります。例えばあるキャラクターがリバサでレバー入れ大パンチやハイスラッシュを振り回した時は、投げ読みで入力した投げ抜けが通常技(特殊技)に化けたんだろうという推測が出来る訳です。
投げ抜けの追加以外にも投げの攻防をに大きな影響を及ぼした変化がもう一つあります。それは投げに専用コマンドが導入されたことです。
ザンギエフのスクリューパイルドライバーが存在したので、所謂、コマンド投げ自体はスト2時台から存在していました。ですが、多くのキャラクターの持つ投げ――区別のために通常投げと呼ばれます――は(相手の近くで)レバー入力+攻撃ボタンで成立する技であり、(相手の近くで)ない時は対応する攻撃が暴発しました。まあ、スト2時点でのスクリューパイルドライバーも例外ではなく、吸い込むと揶揄されるほど成立間合いの広いスクリューといえどやはり限界があるわけで、その範囲外ではパンチ攻撃が出ていました。後述する空振りモーションが出るようになるにはスパ2まで待つ必要があります。
更に進んでストZERO3、スト3からはボタンの同時押しで通常投げが出るようになります。これによって何が起きたかといえば、スパ2時代はザンギエフだけの特徴だった(注:他キャラのコマンド投げにはなかった)投げ空振りモーションを全キャラが持つことになったのです。以前はプレイヤーが投げのつもりで入力しても(相手の近くで)あれば投げ、そうでないなら打撃という処理になっており、言ってみればシステムが気を利かせて「遠いから投げを入れたはずはないだろう」と忖度してくれていましたが、固有コマンドになったことで間合いはどうあれ、プレイヤーは投げのつもりでコマンドを入力したことがバレるようになってしまいました。格好良く言うと間合いがちゃんと見れているか、相手の動きから的確な対処が判断が出来ているかが如実に出るポイントになったのです。
つまり、相手が投げを仕掛けてくると読んで抜けコマンドを入力したときに、間合いを外されていると投げを空振ってしまい、その硬直に手痛い攻撃を食らってしまうようになりました。今までの忖度投げだと打撃攻撃が漏れてラッキーヒットもあり得たのですが、投げスカりだとそういうヒットは起こりえません。相手の投げ抜けを投げとしてスカらせるのはこれまで以上に大きなチャンスを生むようになりました。現代風に言うとシミー(振動)。間合いを詰めると見せかけて離す動きが振動しているように見えるから。だと言われています。昔は投げシケ狩りって言われてたそうです。ついに投げシケが出てきました。長かったですね。
つまり、投げシケっていうのは、いわゆる、グラップ漏れ。もしくは、モーション的には投げスカりモーションのことを指します。もちろん、前後の文脈によって範囲が変わるので、相手のシミーなどに釣られたグラップ漏らししか含めない場合もあるし、間合いを見誤って投げ間合いの外でやらかしたことを呼ぶ人もいます。そのあたりは空気読んで。どうぞ。
投げスカりモーションと何気なく書きましたが、スカりって意味わかりますかね? スカはすかたんの略語であり、すかたんから遡れば肩透かしや空かしなどを語源に持った当てが外れたり、騙されたり、裏切られたりと言ったことを指す言葉です。そこから、くじのハズレなどもスカと呼ばれるようになり、スカると動詞形にすることで外す、外れるといった意味を指すようになりました。漫画なんかで空振りの擬音にスカッと書かれているのを見た人もいるでしょう。実際、目測を誤って投げを外す=当て損なっている訳ですから、表現としては自然な成り行きといえます。
一方、シケはどういう意味でしょうか?
ウィクショナリーにおいては7つの意味が挙げられています。
第一に曇る、第二に時化ると書いて海が荒れること。転じて(漁に出れない漁師のように)手持ち無沙汰な様子を指したり、金回りが悪くなって不景気な様子を指したり、気持ちが落ち込む様子を指したりします。遊郭やホテルなどに立ち入ることを指す、しけこむも時化で漁師が家にこもる様子から出たとされています。7つ目のつまらない、楽しくないも、不景気な様子などを指しているの範囲が広がったと考えることができるでしょう。
とはいえ、どれも今回のシケには当てはまりそうもありません。確かに投げシケの隙に打撃を差し込まれると手痛い被害を受けますが、投げシケ自体にこもっていたり、手持ち無沙汰であったりという様子はありません。むしろ、どちらかといえば打って出た結果の失敗な訳です。やること成すこと裏目に出るて景気が悪いという説もなくはないですが、この場合、シケるのは投げに限った話じゃありません。昇竜シケもあるなら納得しますが、そういうワードは寡聞にして存じません。
どちらかといえば、6の意味である湿気るのがまだ近い。花火などの火薬が湿気ると炸裂しなくなって不発になってしまう。間合いの中なら投げが決まるが、相手に間合いを外されて成立しなかった様子を見て、湿気てるのほうがまだ自然な気がする。ヒット・ガード・空振り問わずに飛び上がってしまう昇竜と違って、投げは不発に終わったのがわかりやすい。ただ、これも他の意味と比較したらそれっぽい、という話であって、例えば単品でハズレを意味するスカと比べると、外れたり空振ったりという意味合いでは弱いですよね。
本当に何なんだ投げシケって。
まあとはいえ、相手の起き上がりに後ろ歩きで投げシケを誘って狩る。という文章を見ればシケの意味がわからなくても「あ、投げスカりのことだろうな」というのは前後の文脈から読み取れます。そういう文脈が頭にあれば、「投げシケ出たねぇ」と言われれば、グラップ入れちゃって投げ空振ったねぇという意味であることはわかります。
投げシケに限らず名前や用語にとって重要なのはコミュニケーター同士で誤解や誤読が起きないことなので、投げを空振ったときに出る空振りモーションのことと互いの理解が共通していれば、投げシケのシケの意味がわからなくても会話は成立します。
これはつまり、前回お話した中段と同じことで、原義的には上段と下段の間の段のことを指すけれども、格闘ゲームにおいては上段とも下段とも異なるガード対応攻撃のことだよということが理解できていれば、前後の文脈から文中の中段が原義的な中段を指すのか、格闘ゲーム的な中段を指すのかも読み取れます。
不思議なことなど何もないのだよ。関口くん。
……ここまで書いたけど、飽きたので終わり。ばいばい。