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2022年3月1日火曜日

歴史から見た中段攻撃

虚木零児です。

メルティブラッドが発売されたり、KOF15が発売されたりと格闘ゲームはなかなかの勢いがありますね。そういうことしてると、Googleがこういう記事をおすすめしてきます。

2D格ゲーの「中段」技って初めて聞いたとき謎すぎませんでした?

古来からの格闘ゲーマーを名乗るには歴が浅く、そのくせ、格闘ゲームから離れて長い僕ですが、個人的に謎と感じたことはないんですね。とは言うもの、用語が成形された歴史を知らないとそういうものなのかも知れないなとは思っています。

本当はウメハラとかそういうレジェンドプレイヤーが語っているような気もしますが、格闘ゲームにちょっとだけ詳しいおじさんが語る、中段攻撃の歴史とその語源? でございます。はじまりはじまり~。

この手の話をするとなると、まずは兎にも角にもスト2の話であります。格闘ゲームの中では最古に近いレベルの古のゲームなのですが、格闘ゲームの基礎はこの時点でおおよそ出来ていたと言われています。攻撃にヒットとガードがあり、ガードすればダメージがない。ただし、ガードには上下の区別があって、間違ったガードでは防御ができない。インストラクションでどのように説明されていたかは忘れてしまいましたが、足元を狙う攻撃はしゃがみガードでしか防げないぞ! みたいなことは当時、リアルキッズだった僕らみたいなニワカにも常識として広まっていました。

さて、今を生きる人達には信じがたいことかもしれませんが、この時点での地上攻撃は大きく分けると二つしかありませんでした。それが上段と下段。ざっくり切り分けると上段ガードが出来るか、出来ないかの違いしかありません。

この時代、基本的に地上攻撃はすべて下段ガード出来ました。サガットのタイガーショットのような攻撃位置の高い攻撃は、一部キャラ以外、しゃがんでいると当たらないのでガードしようと思っても出来ないことはありましたが、下段ガードでは防げない地上打撃というものはありませんでした。本当に投げだけが例外だったんですね。

スト2におけるガード対応を表にすると以下の通り。

上段攻撃は立ちガードもしゃがみガードも可能で、下段攻撃は立ちガード不能のしゃがみガードのみ可能です。この時点でしゃがみガードが出来ない攻撃は、ガード自体が成立しない投げと、ジャンプという準備が必要なJump攻撃しかありません。

今でもそうですが、飛び込みは見える人には見え、落とせる人には落とせるもの。一方の投げは発生こそ早いですが、密着の必要がありました。だもんだから、しゃがみガードで攻撃をシャットアウトしつつ、近づいてきた相手は打撃で追い払い、飛び込んできた相手を対空で落とす戦法。いわゆる待ち戦法が強かったんですよ。まあ、僕は飛べば落とされ、飛ばれたら通すようなプレイヤーだったんで、何やっても弱かったんですが。

スト2はその後シリーズとして今で言うバージョンアップに当たるような作品が続けて出されますが、長らくこの表の状態が続いていきました。シリーズ最終作(ハパ2除く)のスパ2Xになって、リュウが鎖骨割りを習得することになります。これこそが最新作のスト5でも現役という伝家の宝刀。みなさんもよくご存知、今回のエントリーのネタでもある中段攻撃が誕生した瞬間です。

……誕生は盛ったかも知れない。史上初の地上中段技については、格闘ゲームにめちゃくちゃ詳しい人に聞いてください。

それはさておき、この地上中段の登場によってプレイヤーも一つの選択を迫られます。この上段でも下段でもない地上技を我々はなんと呼称すべきか問題です。ガードの対応は昔からあるジャンプ攻撃と同じではあります。ですが、鎖骨割りはジャンプを必要としません。それじゃあ、上段か下段に割り当てるかと行っても、ガード対応が上段とも下段とも違うのですからどちらで呼ぶわけにもいきません。

と、なったとき、上段下段と類型の表現で、区別ができる中段が選ばれたのは半ば必然だったのです。幸いにして、立ちガードのみ可能という対応と中段というワードの食い合わせもそこまで悪くありません。なんとなく、下段よりは高そうじゃないですか? 中段。

ただまあ、そういう意味では、同じ対応のジャンプ攻撃がほとんどの上段攻撃より高いじゃんという、マーシナリーとも子氏の指摘は唸らされますね。確かに一番高い飛び込み攻撃が中段なんておかしいような気がしてくる。

この謎の答えは簡単で、古来、ジャンプ攻撃は中段ではなかったんですよ。

最初に戻りましょう。例えばスト2などの地上中段技がなかった時代、立ちガード可能でしゃがみガード不能の攻撃はジャンプ攻撃しかありませんでした。賢明な読者の皆さんはお気づきになったことでしょう、しゃがみガード不能の攻撃に特別な呼称は必要なく、ただ単にジャンプ攻撃なり飛び込み攻撃なりで事足りてたんですよ。

そこに鎖骨割りに代表される地上中段技が登場したことで、ジャンプ攻撃との区別、既存の上下段攻撃との区別のために、中段という表現が登場。必然的に立ちガードのみが対応している攻撃が中段と表現されるようになります。これにより、立ちガードしか出来ないジャンプ攻撃もガード対応的には中段に含まれてしまいました。

地上技の中で一番高い位置を攻撃するから上段であり、それより高い攻撃はジャンプ攻撃しかない。という状態から後発の概念である中段が生まれ、ジャンプ攻撃がそちらに分類されてしまったがために、上段技より高い位置を攻撃しているのに表現は中段という高度の逆転が発生してしまったんですね。

最初から上中下段と別れていたなら、ジャンプ攻撃から上半身攻撃までを上段、胸から下で膝から上までを中段、足元を狙う攻撃を下段と分類したかも知れません。実際、カプエス2のギースの当て身投げの上段はジャンプ攻撃(以外にもあるけど)に対応し、中段が立ち攻撃に対応しています。ただまあ、スト2には地上中段という概念がなかったので、そういう風にはならなかった。そういうことです。

さて、ここからはおまけになりますが、先に紹介した記事では"2D格闘ゲームの"とジャンルが絞られています。これはつまり、3D格闘ゲームの中段攻撃にはそこまでの違和感を覚えていないということなのでしょう。

まあ、それもそのはずで、後発のゲームでは基本の骨組みは伝統のスタイルに従いつつも整理や工夫がされているところがあるんですよね。

例えば、鉄拳やソウルキャリバーなどでは、特殊中段という第四の分類が追加されています。これは立ちガードでもしゃがみガードでも防御可能な攻撃のことで、ガード対応だけを見ると2D画面の上段攻撃と同じです。

これがなぜ、わざわざ特殊中段などと呼ばれているかといえば、この2タイトルにおいては上段攻撃とは本当に高い位置を攻撃している技の属性なので、しゃがみ状態(ステート)の相手にはヒットしないものを指します。つまり、特殊中段とは上段攻撃とはしゃがみ状態の相手に当てられる点が違い、中段攻撃とはしゃがみガードされてしまう点が異なり、下段攻撃とは立ちガードで防がれるという部分が一致しません。既存の上中下段のいずれとも異なる、特殊な立ち位置の攻撃が特殊中段と呼ばれるようになったのは納得しかないのではないでしょうか。

……しゃがみ状態に当たる特殊上段でも、立ちガードが可能な特殊下段でも呼び方はなんでもよかったのでは? という意見もあるでしょうが、文句はバンナムに言ってください。

逆に、ブレイブルーはガード対応と攻撃位置を分離させることで対応しました。正式名称は忘れましたが、ブレイブルーの攻撃は頭、胴、足の3つのどれかを持っており、頭のあたりを狙う攻撃には頭属性、胴体付近を狙う攻撃は胴属性、足元を狙う攻撃には足属性が付与されていました。これはガード対応とは一致しておらず、頭属性の中段攻撃もあれば、頭胴複合の上段攻撃などもありました。

これの真価が発揮されるのは、該当部位への攻撃に対する無敵を付与できたことです。僕がやっていたころは、ほとんどのキャラのジャンプ攻撃は頭属性攻撃で、ほぼ全キャラが共通で持っている6Aの対空攻撃はその頭属性に対して無敵がついていました。なので、ジャンプ攻撃に対しての6Aはめっぽう強い。ですが、同じガード対応の地上中段は必ずしも頭属性だけではないので、無敵ですり抜けて一方勝ちはできない。ということが可能です。

この実装なら、例えば攻撃位置は足元と低いけれども、バランス調整の関係で立ちガードが可能な攻撃を足無敵の攻撃で回避しながら反撃するという実装もできます。ガード対応無敵だと対下段無敵では回避できないんだけれど、ブレイブルー方式だと攻撃部位とガード対応を別々に考えられるので問題がありません。実際にそういう技があったかと言われると微塵も思い出せないんですが……まあ、ええやろ。

と行ったわけでまあ、日々刻々と進化を遂げる格闘ゲーム界において、この古びた思い出語りの内容がいつまで通用するのかはわかりませんが、歴史の一頁の端書きぐらいにはなるだろうとは思いましたので、こうして書き残しておきます。何かの参考になったのであれば幸いです。

それじゃあまた。