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2024年12月28日土曜日

なぜか今更8番出口を褒めるという異変

虚木零児です。

以前ネタにした、8番出口がSwitchで発売映画化されるそうです。おめでとうございます。売れ行きも良いらしく、我事の様に誇らしいです。面白いんですよ、このゲーム。僕は何の関係もないけど。

さて、今世界中(?)で人気の8番出口ですが少し前からSteamではオマージュの異変探しゲームが一定流行っています。いちいちタイトルは上げませんけれども、エスカレーター、地下鉄ホーム、新幹線、ホテル、あるいは、マンションの一室。などなど……

僕も出たホラー特化を謳う奴には挑戦しましたよ。一回、何も出来ずにやめたけど。

だって、幽霊と心温まる7日間を過ごした思い入れのある部屋だったので、なんだか物悲しくて……いや、物悲しさじゃないな。アセットなんか、これ。と思ったら急に笑いが止まらなくなってやめました。たまにあるよね。ホラゲのはずなのにエロゲで行ったことある屋敷だったから集中できないみたいな話が。

違う。そういう話じゃない。この一作品に8番ライク作品の全責任を負わせるみたいで酷な話ではあるんですが、遊んでみて思ったのは「これは8番出口の面白さの芯を食えてないな」ということでした。

足りないんですよ。恐怖が。ちょっと演出をホラーに寄せたぐらいでは埋まらない、圧倒的な気持ち悪さというものがない。

アイデア自体は前々からあったよね

これは老害の戯言として聞き流して貰えればいいんですが、8番出口より以前からこの手のゲームってありましたよね。この手の「この」でどこまでを指すかの問題だと思うんですが、例えば「間違った道に進むと進まない」ゲーム自体はかなり古い。それこそ、初代ドラクエの時点で類似ギミックあったらしいじゃないですか、

【無限ループ】 - ドラゴンクエスト大辞典を作ろうぜ!!第三版 Wiki*

……僕はやったことないので知らないんですが。

8番出口は(多分)ランダムで異変の有無が変動して、その有無で正解の道が変化するという構造になっている。一方で、多分ドラクエの方は定数的だから、一度タネが割れてしまえばそれを覚えていれば、正解の道順を選択できるのでプレイ感覚はかなり異なります。

まあでも「指定範囲内の手がかりから正解の道を判別する」っていうのも、過去に例としてあったと思います。僕がやったRPGなので、多分ペルソナのどれかだったと思うんですが、自分の姿が映り込まない鏡を探すギミックがありました。あれがランダム配置なのかは正直知らないんですが、仕組みとしては似たようなモノですよね。

じゃあ、そうやって「8番出口は大したことない」みたいな言い分を繰り返しているのに、8番出口だけ特別扱いするのは何なんだ? 何がすごいと思っているんだ? って話ですが、それは世界観とか雰囲気であって、あるいはそれを表現した技術力だと思うんです。

ゲームってすぐ目隠しするよね

例に上げたドラクエなんかは顕著な例なんですが、エリア移動の際って画面が暗転して再び明るくなると、マップの様子がガラリと変わっていて、プレイヤーの位置が変化しているということが度々起こりますよね。それは仕様や構造上仕方がない部分が多数ではあるんでしょうし、建物から出ると街のマップの建物の前にいる、あるいは、逆の街のマップで建物のドアに踏み込むと建物の中のマップに移動している。という経験から、この世界の文法としてそういう法則があるんだな。というのがすぐに分かる。

それを利用した悪さの一つが、前述の無限ループな訳です。普段の文法であれば、地下6階から階段で降りた先は地下7階であるはずなんだけど、実際は再び地下6階の階段の前に移動をさせられていて、なんだか同じような地形が続いているように見えるんだけども、実際は同じ場所をぐるぐる回っているだけ。という。

これは意地の悪い言い方をすれば、約束破りなんですよ。ゲームが今まで「こういうアイコンは階段になっていて、ここを踏むと上の階や下の階に進みますよ」と言っていたのに、今回に限って突然「同じ階に移動させたろ」ってやっている。これによってプレイヤーは「よし、地下7階に来たぞ!」と思っているのに、ゲーム的にはまだ地下6階にいるという状況を作り出している。

これは、逆に言えば、ゲームではそういうことができるんという話でもあります。たまにRPGツクール製のフリーゲームであるよね。武器・防具屋から外に出たはずの主人公が宿屋の前に立っているみたいなことが。宿屋のマップを使い回したのに、外に出るイベントの転送先設定変更するの忘れてたりするとこうなります。テストプレイせい。

こういう経験をしていると人間って覚えていくんですよね、なんでもないところで急に画面が暗転したりすると(あ、これはなにかあるな……)と身構えるクセがついていく。

これが8番出口ライクともなると、いわばドラムロールも同然です。

「さあ、果たして、進むという選択が、正しかったのでしょうか!? 正解は?」

というアナウンスと等価値と言っても過言ではないでしょう。過言かも知れない。

本家8番出口にはそんなものありません。粛々と世界は続くんですよ。

僕が来た道はどこに消えたの?

8番出口ってクリア時にホワイトアウトするか、一発アウト系の異変にやられてブラックアウトする以外は明確な画面転換の演出をしません。正しい道に進もうが、間違った道に進もうが、わかりやすい切り替えがありません。

おそらく、ゲームという特性上、どこかのラインで判定していて「正解した」「間違った」という判断を下しているんでしょうし、無限ループトラップよろしく座標の移動も挟んでいるんでしょうけども、それが素人に分かりづらいように設定されている。

だからこそ気持ち悪いんですよ。特に異変があって戻ったときの演出が珠玉。

通常は自分の進行方向、左手側に「n番出口」という看板が出てきて、正しい道を選べばここがどんどんとカウントアップされていく。特になにもない時はまっすぐ進むと、先程、n番出口の看板があったところの表記がn+1番出口になっているだけ。無限に似たような光景が続いているという問題に目を瞑れば、不思議なことはない挙動なんですよ。あるべきものがそこにあるという感覚。

一方で、異変を発見して戻った場合は話が違う訳です。進行方向が変わるんだから、今まで自分の右手側に見えていた壁が、左手側に回るんですよね。

▲図1.進行方向によって見ている壁が違う図

これはつまり、先程までの通路を逆行した場合、看板は普通「右手側」にあるはずなんですよ。通常の世界であれば。上の図であれば、赤い壁に今まで看板が掲示されていたんだから、逆戻りしたところで看板は赤い壁になければおかしい。

しかし、ここは異変によって無限に続く不思議な世界なので、異変を見つけて逆進した場合、つまり、青い三角形の立場が生の場合は今まで同じく「左手側」に「n+1番出口」案内看板が見えてくる。つまりは、青い壁に看板がある状態になる。

なんでぇ?

そういう世界だから

そういう気持ちで見ると、オジサンとかも実に味があるワケです。おじさんの挙動としてはプレイヤーとは反対側から通路に侵入してきて、すれ違う形になります。デフォルトの挙動としては。ネタバレしちゃうと、この人も異変に巻き込まれて変な動きする場合がありますから、毎回そうとは限りません。

で、すれ違ったこの人はどうなってしまうのかと言うと、ある程度進んだところでスマホを片手に立ち尽くす演出が入るんですよ。

おそらくですが、この人も立場的には我々と同じで、行きたい場所があるんだけれども、進んだ先が期待する状況じゃなかったことで、立ち止まってスマホで何かを確認をしているのだと思います。知らない場所で道に迷ったらそういう挙動になるよね。

でも、これが暗転挟むタイプだと余計な思考が交じるじゃないですか。

極端な話、ライクゲームみたいな暗転挟むタイプって現実にできるんですよ。「それじゃあ、プレイヤーさんは一度部屋出てもらってもいいですか?」って我々を追い出している間に、小道具さんと大道具さんがバタバタして、役者さんも所定の位置に戻れば同じ演技をすることはできる。実際はコンピュータゲームほどスムーズに組み換えが出来ないので、遊ぶと興ざめしそうですが、僕らが部屋の外に出されて待っている間にオジサンが向こう側に戻ってくれれば似たような状況にはなるんですよ。もしかしたら「それにしても、ポスター見逃すかね……」って時間が伸びたことを愚痴っている可能性すらある。

8番出口は「舞台裏を想像させない努力」が本当にエラい。ゲームのお約束に甘んじることなく、出来うる限りの現実に描写を寄せることで「きっとこのオジサンも俺達と同じように怪異に振り回されて脱出出来ない人に違いない」と感じさせてくれる。エキストラの役者さんに見えてくると、なんか感情移入出来ませんからね。……まあ、厳密には何回すれ違おうがこちらを認識してこないので、完全に同じ立場ではなさそうではあるんですが、そこはまあええやろ。

実際問題、この一点だけで自称「ライク」ゲームの多くとは一線を画しているし、よくぞこの形に落とし込んだなと感心をさせられるものであります。もちろん、ライクゲームも「有無」判断に絞らず、具体的な指摘を必要とするなどの工夫でゲーム性を変える努力なんかを感じたりはするんですけど、まあ、なんか凡百……みたいな感じ出ちゃいますよね。

実際の所。