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2024年1月20日土曜日

#未解決事件は終わらせないといけないから

虚木零児です。

皆さんお元気でしょうか。私はそれなりです。

昔はアクションゲームが好きだと思っていたのですが、年末に頭を使うフリをしようという記事を書いたことから分る通り、ゆるい感じで頭を使うゲームも好きです。やっぱりしっかりとした推理モノとなると尻込みしてしまうのですが。

というわけで、今回はこちらのゲーム。

未解決事件は終わらせないといけないから - Steamページ

この言ってる意味はわかるけど、どこか不穏な感じの日本語文。最高ですよね。

どんなゲームなのか

ゲームとしてはざっくり言えば、未解決事件として終わってしまった少女行方不明事件。その捜査に当たっていた警部の記憶をたどる形で当時の真相を明らかにしていきましょう。というモノ。難しい捜査は必要なし、前提知識も特にいりません。

メッセージアプリのように表示される警部の記憶の中には、いわゆるハッシュタグのように#記憶 とか #学校 とかのワードがあり、これをクリックするとそれをフックに別の記憶を思い出すことが出来るという仕組み。また、@がついたのは人物であり、これをクリックすることで関係者を思い出すことも出来ます。

メッセージアプリなので、そのアカウントとの会話は一列に。その中で上にあるものほど古いという構造になっている――はずなのですが、そこはいかんせん、昔の記憶を思い出しているのがネック。我々もそうであるように、頭に時系列の順に思い浮かぶとは限らず、何なら、Aさんとの会話の記憶だと思っていたことが、中身をよく見ると別のBさんの記憶だった……といったことが発生します。そこでプレイヤーは警部の記憶を正しい証人の列に入れ、さらに時系列を正しく整理するという作業を行い、改めて事件の全容を解き明かしていくことになります。

タイムラインを正しくつなげると固定され、内部ポイントが溜まっていき、一定以上ポイントが貯まると鍵を手に入れることが出来ます。黄色い記憶はこの鍵を使うことで開放され、その記憶から判明した事実に沿って記憶を並び替えたり、話者を修正したり……他にも色付きの記憶には真相解明の手がかりを事前に掴んでおく必要があり、提示された謎について対応する証言を選ぶことで開放されるものもあります。

これが事件究明の思考的な補助線となっており、プレイヤーが多少勘が悪くても大丈夫。もちろん、答えがまるのまま出てくるほど無粋なものじゃないので(あ、もしかしてこういうこと……?)からの「はいはいはい、そうだよね?」と腹落ちさせてくれます。

何回、なるほどって言ったか。

一度記憶をたどるのに使った#や@は再利用出来ないのに、関連する記憶が複数出てくることもあり、最初はちょっと不安になりました。が、プレイしていけば別の商人が使った同じような単語であったり、別の記憶で再度出てきた単語であれば同じようにたどることは可能なので、そこは安心。個人的には気になった単語、記憶があればどんどん読み進めても大丈夫だと思います。少なくとも僕はビクビクしながらプレイしてたし、ちょっと行き詰まって不安になったりしたけれど、いわゆる二進も三進もいかなくなる詰みの状況に陥ることはなさそうだなとは思いました。

本当によく出来てる。

終わらせないといけないから

ストアページの画像からわかる通り、ヴィジュアルはモノトーンで地味。事件自体も未解決という名の一応の決着がついているし、緊迫感はゼロです。それでいうと、名探偵になって華麗に事件を活躍して、ヒーロー・ヒロインになりたい! という欲求は満たされないかも知れません。

でもだからこそ面白いと思うんだよな。このゲームに関しては。

タイトルからも分かる通り、未解決事件を未解決のまま終わらせるのではなく、真相を暴くのが目的ですが、この構造が本当にうまい。うまく事件を隠蔽して、惹きつけるような作りになっているんだな、これが。

考えてみれば現在進行系の事件捜査であれば、プレイヤーは手がかりを時系列順にしか手に入れられません。一方、記憶によって過去を遡るのであれば、印象が強かった犯人の自供であるとか、被害者であるはずの少女の親が事件解決したのにどこか犯人に同情的であると言った部分が先に出てきてもおかしくない。正直、最初の時点では何が起きているのか、全くわからないと思います。割と早い段階で「僕が誘拐しました」って男が「自首」してくるのに、未解決とはこれいかに。

でも、ちょっとずつ記憶が繋がっていくと、なるほど、確かにその前提だったら、セリフの意味が変わってくるわ。俺の考え方が間違っていました。ってなってくる。音声とかもなくて、話し言葉が書き文字に起こしているのもあって「あ、この人の証言じゃないじゃん!」みたいなのもあります。

いわゆる、叙述トリック――と言うには、インタラクティブメディアであることを活かして叙述をグチャグチャしているという点で違うんでしょうけども、なんて言えばわからないので何らかのトリックとしておきましょうか。なんだよ、何らかのトリックって。

正直、ぜひとも余計な知識をなしに遊んでほしいので、万が一、未プレイの人の目に止まったときのことを考えてネタバレは避けるんですけど、どんどん記憶が掘り起こされて話が出てくる度に違和感が大きくなって、決定的な証拠が出てきた時に「ああ、やっぱり!」とか「なるほど、そういうことね!」ってさせてくるのが本当にうまい。阿刀田高氏がミステリ小説について語った本で出てきたんですけど、こういう謎を読ませるエンタメは「納得」が気持ちいいかは本当に重要なので、そこで気持ちよくなれるのが本当に嬉しい。

これはちゃんとミステリしてると言っていいんじゃないかな。

多くの人に遊んでほしいと思っているから

実際の所、尻込みする理由はいくつもあります。デベロッパSomiは有名な所で罪悪感シリーズなんかが有名な作品らしく、これまでの作品も知らないと楽しめないかな……とか不安に思う人もいるでしょう。個人的にはこれまでの作品を何も知らずにプレイした僕が十分に楽しめたので興味があるならチャレンジしても大丈夫だと思います。

ただ、描写的にはちょっと微妙な部分がなかったわけではなく、途中出てくる制度なんかはちょっと違和感がありました。キャラクター名は全員日本風なんですけど、日本の児童虐待予防ってここまでやってんのかな? っていう気はします。制作者さんが韓国の方なので、あちらではここまで行き届いているのかも知れません。どっちも調べてないからわかんないんだけど! トリックの一部は日本で通るかな? って言う。そこはもうちょっとしっかりしてるイメージがあったなぁ。文化とか風習とかならともかく、社会の空気感みたいな話になるので、難しい所ですよね。お互いにとって。

そういう意味では思い切って韓国風の名前でも良かったんじゃないかな? とかは思わないでもないです。でも、向こうではこれが普通なのかな。なんか、漫画とかも直されてるとか直されてないとか聞いたこともありますし。

……でも、ゲーム自体が、言葉で勝負している部分があるので、自分たちの身近な物語だと思って貰わないと見落としてしまう部分が出てくるかもと考えると、この選択自体は正解ではあるんだと思います。僕も変に韓国の方で作られたゲームという知識があったばかりに(もしかしたら、文化の違いでアッチでは普通のことなのか?)とか(翻訳で変になってるのか?)みたいな、疑心暗鬼になってましたからね。クリアしてみれば、別にそんなことはなくて、むしろしっかりローカライズしてそうだな。とは思いましたけども。

詰まって進めなくならないようなバランスもそうですが、きめ細かな作りになっていて、これは大変に良い物だと思います。アイデアだけでゲーム部分がイマイチ……みたいなことにはならないと思いますので、気になった皆さんは是非、お買い求めになっていただき、未解決事件を終わらせていただければな。と、そう願っております。

それじゃあ、また次回。あればいいな!