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2024年2月11日日曜日

メトロイドヴァニアにも色々あるんだよ。ああ見えて

虚木零児です。

メトロイドヴァニアはメトロイドともキャッスルヴァニアとも関係がない! と主張するとんでもない意見がX(旧Twitter)上を流れていきました。

そんなワケあるかい。

ということで、僕が知っているメトロイドヴァニアとは? という情報を書き残して、将来の知見に役立てていただこうという試みです。こんな話を好き好んでするような奴がまともなはずないのだ。

メトロイドヴァニアとは

まず、メトロイドヴァニアとはメトロイドとキャッスルヴァニアのカバン語で、メトロイドは任天堂のゲーム作品であり、キャッスルヴァニアは日本では「悪魔城ドラキュラ」の名前で知られるコナミのゲーム作品となります。

2Dの横スクロールアクションは初期のスーパーマリオ、あるいは、シリーズ序盤の悪魔城ドラキュラがそうであったように、ステージクリア型の一方通行型のゲームが主流でした。そんな中、メトロイドは非線形クリア型アクションとなり、今日で言うところのマップ探索型のアクション。つまりは、同じところを行ったり来たりするゲームになっています。

一方の悪魔城ドラキュラは、シリーズの進化の中で徐々に単純なステージクリア型のゲームでは無くなっていき、「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」にて完全に探索型のアクションゲームとなります。以後はステージクリア型のゲームではなく、マップ探索型のゲームとしての側面が強く出ていくようになり、メトロイドのゲーム性に近づいていく。

とはいえ、片方は宇宙を舞台にしたSF、もう片方は中世ヨーロッパ風のファンタジー要素の強い作品。世界観はもちろんのこと、主使いの武器の射程とか装備の性質といったような実際のプレイフィールなども含めると、納得の行かない部分もあるでしょう。まあ、そこは以下のベン図で言うところの重なり合った部分ですよ。

図1.メトロイドヴァニアが指すもの

つまり、メトロイドとキャッスルヴァニアの共通点と考えると

  • 非線形クリアのマップ探索型であること
  • 「横スクロールアクション」ゲームであること

の二点。実際、Steamなどのゲームストアでは上記2つを両方備えるゲームには基本的にメトロイドヴァニアというカテゴライズがされています。ジャンルとしては結構人気があり、たくさんのゲームが販売されていることがうかがえるでしょう。僕自身、いくつかのゲームは遊んだことがあります。

もちろん、マップ探索型という構造の都合上、上方向への移動量の強化(二段ジャンプ、足場の生成など)や、マップに干渉する力の強化(鍵による開閉、滝を凍結させて足場にするなど)によって、前回来たときと今回来たときとで目的や見え方が変わるといった工夫が施されていることが多く、このあたりも共通点には見えます。

まあ、そこはゲーム性によるし、メトロイドヴァニアが増えていく中で薄れていく可能性もあるので、ここではおそらくなくなることがないだろう部分を挙げさせていただきました。

では、このメトロイドヴァニアがどういう経緯で生まれ、どういう変化を遂げてきた"単語"なのかを僕が知る限り書き記すことにします。

なぜ"メトロイドヴァニア"が生まれたのか?

メトロイドヴァニアという用語が生まれたのは、前述の"月下"以降の近似システムを持つ悪魔城ドラキュラと、初代から続くステージクリア型の悪魔城ドラキュラの区別の為。というのが有力な説です。

ニコニコ大百科 - メトロイドヴァニア

これ自体はあまり突飛な出来事ではなく、弦の振動を電気信号に変えて音を発するギターがエレクトリック・ギター(エレキギター)と呼ばれたり、液晶一体型のタブレットが液タブと呼ばれたりとありふれた出来事といえるでしょう。ギターやタブレットの利用者と同じように、キャッスルヴァニアという大きなくくりの中で、月下の夜想曲に代表される探索型のキャッスルヴァニアを指し示したいなと思った人が、当時代表的な探索型ACTのメトロイドと組み合わせて造語した。というワケですね。

図2.メトロイドヴァニア発生初期

これはつまり、言い換えれば「キャッスルヴァニアの中でメトロイドライクなモノ」という意味でした。まずはキャッスルヴァニアがありました。

ところが、先程も申し上げました通り、ゲームストアにあるメトロイドヴァニアには正当な「キャッスルヴァニア」は数えるほどしかありません。良い、悪いじゃなくて、キャッスルヴァニアとして開発されて売られている物以外も、メトロイドヴァニアに含まれるようになっている。ということですね。

これは一体どういうことなのでしょうか?

今風に言うならばメトロイドライクなキャッスルヴァニアの意味であり、探索型という意味合いはメトロイドが担っていたことが伺えます。まあ、メトロイドは生まれついての探索型なのに対し、キャッスルヴァニアは線形横スクロールアクションだった時期があるわけですから、仕方ないですよね。

ただ、この時点では現在の用途、つまりは「マップ探索型」かつ「横スクロールアクション」の総称、いわゆるジャンル名になるはずではなかった。

ジャンルへ、普通名称へ

そもそも、先の説を採用するなら"メトロイドヴァニア"黎明期の頃、探索型の代名詞はメトロイドであったことがうかがえるかと思います。数あるキャッスルヴァニアの中で、メトロイド様の構造のモノをメトロイドヴァニアと呼んだ訳ですから。

これはキャッスルヴァニアの側が歴史の中で、ステージクリア型のゲーム時代があり、それからマップ探索型のゲームシリーズとして再度大成するという歴史を刻んで来たのに対し、メトロイドが第一作目から同じところを行き来するようなゲーム性だったことに由来します。今となっては3Dアクションなども作られているメトロイドですけれども、マップを探索していくゲームというのはメトロイドが持つ特徴の一つとして認識されていました。

ところが時代というのは移り変わるもので、メトロイドが3Dアクションなどのイメージもあって2Dのマップ探索型アクションだけにとどまらなくなり、サムス・アランを中心としたSFアクション劇としての側面が強くなる一方、キャッスルヴァニアもキャッスルヴァニアでステージクリア型の横スクロールアクションとしての側面は薄れ、言葉を選ばずに言えば月下の夜想曲フォロワーなどの増加によって探索型アクションゲームの金字塔としての地位を確固たるものにしていきました。

結果、何が起きるかといえばメトロイドとキャッスルヴァニアを組み合わとは「探索型横スクロールACTゲームの代表的な2タイトルをくっつけたもの」になった。当初想定していた「メトロイドのようなキャッスルヴァニア」ではなく「メトロイドやキャッスルヴァニアのような」という意味になり、そういう構造のゲームの総称――いわゆる、ジャンル名として取り扱われるようになった。なってしまった。

図3.現在のメトロイドヴァニア像

この現象自体はありふれたものであり、有名な所では「ホッチキス」や「エスカレータ」も似たような経緯ですよね。現代ではコの字型の針を「パチン」と打ち込んで紙を綴るモノとして知られていますが、これの前身とも言える機械を、イトーキが「ホッチキス自動紙綴器」として売り出しています。このときのホッチキスは開発者の名前から取ったものであり、いわば、自動紙綴器(ペーパーステープラー)の中のホッチキス式ぐらいの位置づけなんですが……実際の文具売り場にはホッチキスとして並んでいますよね。エスカレータも元々はある会社の商品名、商標だったんですが、今となっては階段式昇降機を指す一般的な言葉になってしまいました。

メトロイドヴァニアも同様で「メトロイド様のキャッスルヴァニア」を指す言葉として作られたものの、その「メトロイドやキャッスルヴァニアの様な」とも読ませる語感も相まって、そういうジャンルや構造を持つ、類似ゲームを指す言葉へと意味が変遷。元々はキャッスルヴァニアシリーズの一部を指す言葉だったものが、メトロイドもキャッスルヴァニアも飲み込み、それに似たモノを指すようになった。

とまあ、そういう風に、理解しております。

そしてメトロイドが消えていく

さて、ここからは蛇足じみてくるんですが、従来のメトロイドヴァニアに更にプラスワンが加わり、それが新たな派生ジャンルとして定着を見せています。

例えばフロムソフトウェアのソウルライクなゲーム性――難易度が高く、死亡時の損失と奪還があり、パリィや回避による駆け引き、一撃必殺の暴力的な演出――などを組み合わせて、ソウルライクメトロイドヴァニア、いわゆるソウルヴァニア。他にもオールドゲーマにおなじみのローグの流れを汲む――ランダム生成マップで、死亡時にレベルがリセットされてやり直しになる――などが合わさったローグヴァニアなどが存在。

もともと「メトロイドみたいなキャッスルヴァニア」を指すために作られたとされる言葉がメトロイドなども含めたジャンルを指すようになり、派生ジャンルに至ると元々重要な役割を担っていたメトロイドという文字列が消えているというのが示唆に富んでいるじゃありませんか。

最近はもう"ヴァニア"だけで「マップ探索型のアクションゲームなんだな」って通じるようになってきたってことだし、この先進んで行くと「メトロイドもキャッスルヴァニアも似たような探索要素を持っているのにわざわざ重ねる理由って何? メトロイド付いている割にはSF要素とかほとんどないし」って言われるようになるかも知れない。

もしそんな時、読者の皆さんはこの記事を思い出して、こう言ってあげましょう。

「黙れハゲ」

それじゃあ、また次回。