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2025年2月16日日曜日

格闘ゲームを知ったかぶろう・描画編

虚木零児です。第二回になります。

今回のテーマは「描画方法で3Dが主流になっても格闘ゲームには依然として2D/3Dの区別が存在している」です。

格闘ゲームはなるほど、格闘家同士の殴り合いを演出しているのですが、そこはゲームですのでオーバーなアクションも多数存在します。実の所、人間は簡単には浮き上がりませんし、地面に叩きつけられてもバウンドしません。ご存知でしたか?

また、それとは別に技術的理由から2D時代特有の演出があり、これは描画が3Dになってからも慣習的に守られています。

今回はそう言った部分にスポットを当てる話になります。作る側の皆さんはそのへん、深く観察さてれいるでしょうから、どちらかと言えば、見る側・読む側への啓発かも知れません。

なお、裏のテーマは文章だけでどこまでやれるかであり、グラフィックが無いのは面倒だったからです。

◆かつて格ゲーキャラは絵だった

通常、格闘ゲームは相対する二人の格闘家をサイドのカメラから捉えた構図で進行します。必然的にカメラの中の登場人物はそれぞれカメラの右手、左手を向いた状態で睨み合うことになります。慣習的にカメラ向かって左側を1P、右側が2Pと呼びます。

ここに一人の格闘家がいます。右肩を引き、左半身を前に出した姿勢で身構えています。流派は我流です。さて、このキャラが2Pサイドに立つ場合、どのような姿になるでしょうか? 皆さん想像してみてください。

できました? 右半身を前に出し、左肩を引いた姿勢になっていますね?

これが2D方式の特徴です。初期の格闘ゲームでは反対向きの際は左右反転させていました。大真面目にやると右向き(1P)、左向き(2P)で2枚グラフィックを用意しなければいけませんが、左右反転して描画することでデータが一枚で済むようになります。

その分、非対称キャラクターの描画は苦手になります。スト2のサガットは広報絵とかだと右目に眼帯、バルログも同様に左腕に爪を付けています。しかしながら、スト2ターボで実際に選ぶとサガットは画面奥、つまり左目に眼帯をしており、バルログは手前側、右腕に爪を装着しています。これは前作スト2において彼等はボス的なポジションとして登場だったことが影響します。2P側に立つのが正位置であり、そこから反転させた1P側は鏡に写ったように逆になります。これは他のゲーム、餓狼伝説だと山崎とかもそう。

それでいうと、MAXIMUMは左右反転しても問題がありません。だから偉い。

◆3Dで彼らは実体を与えられた

さて、時代が進んで3Dオブジェクトをゲーム空間に配置し、それをカメラで収めるようになると少し話が変わってきます。左向きのグラフィックを用意するまでも無く、左向きに同じキャラのオブジェクトを置けばその図は撮れる様になります。

必然、カメラには尻を向けています。左肩を前に出して、右半身を引いて身構えるならば当然そうなる。冷静に考えれば、自然な武道の構えなんてそんなホイホイ反転させれらるはずもありませんから、本来はこれが自然なはず。人間がそんな簡単に切り替えできる人ばっかりだったなら、スポーツのサウスポーが話題になるはずはないんじゃ。

これが3Dタイプ、有名どころだと鉄拳の考え方です。これがバーチャは微妙に違い、スト6やKOFは全く異なるという話ですね。

実は3D描画だと、カメラという概念が重みを増します。

2Dの時は書き割りが並んだ舞台を遠くから眺めてるも同然でした。カメラフレームはあるので、全体を一望は出来ないんだけれども、奥行きとかは生きません。そういう意味では、風林火山とかいう立て看はむしろ自然といえるかも知れない。舞台にありますよね、ああいうの。冷静に考えると何であんなところにおいてあるねんという話なので。

一方、鉄拳は言わば映画かドラマみたいな構成なので、キメシーンではアオリでバーン! みたいなことも可能です。最近のも投げコンボだったり、何か覚醒技?的な奴とかでもアングルがグリングリン動きます。エクバ用語しか知らんのか、このジジイ……

その為、立ち位置が大きく変わらずとも、カメラ変動によっては1P/2Pが入れ替わります。極端な話、相手の頭上を乗り越えてから再び前方に投げ飛ばす首刈り投げでも、カメラアングル次第では自キャラの向きが変わって見えますし、逆にモンキーフリップで背後に投げてもカメラが反対側に回り込むと、相殺されて元と同じ向きになります。技で立ち位置が入れ替わったけれども、カメラも動いたから変わらず向かって右側に立っている、みたいな。知識がないので実例を出せなくて申し訳ない。

◆それぞれの違い

じゃあ、具体的にはどういう差が生まれるか? ここでは個人的に見た目が好きな技である、迅雷脚から風鎌蹴りの話をします。性能の話はしていませんし、図もありません。用意するのが面倒だと気づいてしまったからです。

迅雷脚自体は上段の後ろ回し蹴りです。1P側から出した場合はカメラから見て奥側、左足を思い切り振り上げて「でいりゃ」します。風鎌蹴りはそのまま切り返して相手の膝のあたりに突き出す様に「フン」と蹴ります。僕はまるで真似できないし、仮にできたとてどの程度の衝撃があるのか定かではありません。が、バランス感覚と体捌きから、相手の動きを制する巧みなキックという感じが好きです。性能の話はしていません。

さて、カメラ右側、いわゆる2P側に来た場合ですが、スト6のケンは右足を振り上げるようになります。勿論、突き出すのも右足。前述の通り、鏡写しに動作をします。

これが3D描写だと同じく左足が上がるので画面手前側に向かって足裏が向かってくるはず。当然、突き出されるのも手前側の足。スト6に慣れた生き物には違和感がありますが、利き足なんかを考えると本来はこうなるはずなんですよ。みなさんも体育のサッカーで、場面に合わせて蹴り足変えたりしなかったでしょう?

逆に言えば、2D方式では利き手というものが表現できません。この業界に来たからには両腕両脚どちらでも遜色なく攻撃を出せなきゃやっていけないのです。特別扱いされたいなら右半身と左半身で性能を変えなさい。

たしか、スト5のギルはそうなっていたはず。余談ですが、スト3のギルは描画処理が若干違うらしいです。

ゲームはそれでいいとして、問題は他メディアです。マンガ、アニメは格闘ゲームと違ってカメラが固定されていませんし、サイドビューに戻る必要もないので3D以上に自由なアングルでグリングリン動きます。そもそもの話として1P側、2P側という概念はゲーム上にしか存在しません。ボクシングやプロレスは四方を客に囲まれていて、カメラからの見え方なんてものを意識する必要がありませんからね。

一方で、前回ネタにした漫画みたいに「格闘ゲームを下敷きに格闘技を身に着けた」という設定にすると、サイドビューを使わない訳にはいかない。プレイヤーは基本的にサイドからの画面しか見ていない訳で、彼の経験が実戦にオーバーラップするなら、当然思い浮かぶのは向かい合う二人を横から捉えた画面にならざるを得ない。

とした時に、主人公は迅雷脚でどちらを振り回すんですか? という話になります。自分が画面右手側にいる場合は右足を振り上げればいいでしょう。実際に2P側に立ったケンは右足で「でいりゃ、フン」しますからね。逆に左手側にいるときは? これがもし3Dゲームであったならば、先程同様に右足を上げればいいのですが、2Dゲームだった場合は左足を上げてもらわないと絵が重なりません。

繰り返しますが、現実的に考えれば右足で蹴る動作を覚えたのに、コマの中の座りを気にして左足を振るうなんてのは格闘技としてはあまりに不自然です。敵を倒すのに、第三者からの見え方を気にするやつがあるかよ。

3D格闘ゲームにしておけば、格闘漫画として自然に描けば、それだけで形にはなります。一方で2D格闘ゲームにしてしまうとキメ技は構図を揃えるか、あるいは「ご存知あの技」という演出は数を減らさざるを得ません。振り上げとる腕が逆やんけってなるので。

え? 読んでる人、そこまで気にしてない? お前それを言っちゃあおしめえだろうが。

◆おまけ、バーチャの場合

バーチャファイターのみ若干特殊で、彼らはストリートファイターよろしく利き手、利き足がありません。ですが、同時に鉄拳のファイターと同様に実体を持ちます。

これにより、バーチャファイターは戦いの中でスタンスが替わります。右足を半歩前に出している状態から左正拳突きを繰り出すと、そのまま自然に左半身を相手に向けている状態になります。左足を踏み出して攻撃した後に元の位置に戻さず、そのままの立ち方で構えてしまう為です。

これはバトルスタイルにある特有の構え(例えば、ベネッサのオフェンシブ、ディフェンシブスタイルみたいなの)とかとはまた別の概念です。システム的に足位置とか言われます。双方の対比でハの字とか平行とか呼び、距離が変わるので技の当たりやすさが変わったりする。

らしい。僕はあのゲーム、トレモで技の動きを見るためにしか使ったことないから……

操作的にはPKのみでレフトライトの区別をつけていないバーチャではあまり問題になりません。奥に引いた腕を踏み込みながら突き出すという動作が重要なのであって、その時に突き出されるのが右腕か左腕かは入力段階では区別していないからです。

これはつまり、前後の流れさえ十分であれば、決めのスーパーパンチを右手で打つか、左手で打つかは問題にならないことを意味します。急に絡んできたヤンキーに徐ろに迅雷脚を決める時に、ヤンキーの取り巻きから見た時に映えるように右足を振り上げても、主人公に庇われたヒロインから見た様子がゲーム画面同様の左足を上げてもいいんですね。本当に両利きで構えを変えられる人間であれば。

ちなみにゲームとしては、膝同士がぶつかるのでハの字の方が密着できない、みたいな話になるらしいので、初心者が入りやすいか? については疑問が残りますが、それはそれ。