このブログを検索

2024年11月30日土曜日

流石にそれは理論として矛盾があるだろ

虚木零児です。

またしても、格闘ゲーム用語の「中段」に物申す人が出てきましたね。

初心者向けの数々の配慮!中段じゃなくてオーバーヘッド!これぞ格ゲー入門の決定版![GBVSR]

うん、この話、2年前にもやったよな?

2D格ゲーの「中段」技って初めて聞いたとき謎すぎませんでした?

僕はこれを受けて、結局、2D格闘ゲームにおける上中下段は後に整備された3D格闘ゲームのそれと違い初期の頃の用語などと統合された結果、3D格闘とは細かい部分の差異があって、そこに違和感を覚えるのかも知れませんね。という話をしました。とはいえ、2D格闘ゲームにおいては経緯があって、必然的にそうなっているので、それを踏まえれば不思議なことでもなくなるんじゃないですか? という話をしました。

歴史から見た中段攻撃

それをお前、今、思い出話などとヌカしたな?

まあ、どうせ、僕の記事を読んではいない(読んでたらあんな記事書けないはず)だろうが黙って放置しとくのも癪なのでケチをつけることにする。

*内容的に前回の記事と重複する部分があるのはご容赦ください。

そもそも、高度の話をしていますか?

もともと、格闘ゲーム自体が格闘技を題材として作られたゲームなので、いろいろな用語が格闘技から取り入れられたりしていますし、親和性も高くなっています。格闘技における上段や下段は「攻撃のときに狙う位置」をざっくり示す用語なので、防御については特に言及はありません。まあ、現実なら頭部を狙っているからという理由で横方向に薙ぐ攻撃と、正面から突く攻撃と、大上段から振り下ろす攻撃の防御方法が同じにはなりません。RPGでも細かいゲームでは防御手段自体に強弱が設定されていて、Swingには強いがThrustは苦手な技術とかもありますしね。

さて、この攻撃の高さは3D格闘ゲームではかなり強く反映されていて、上段攻撃は本当に高い位置の攻撃のみ、中段攻撃は胴体付近、下段攻撃は足下を攻撃する動作につけられる属性です。残念ながら調べきれなかったんですけど、Mortal Kombat も攻撃位置に関係している様子。そこから発展した海外の2D格闘ゲームコミュニティでは「mid-level attacks」は中段位置への攻撃という意味しか持たない。これは自然な話ですね。海外コミュニティでLow block を Bypassする攻撃をなんて呼ぶかはもう少し後で話をします。

一方で、日本の2D格闘ゲームにおいては、ほとんどこの使われ方をしません。リュウの「上段足刀蹴り」などの一部技名に採用されるだけですし、リュウの上段足刀蹴りもしゃがみに絶対空振りするタイプの攻撃ではありません。一部、ユーザー用語としてはサイコフリッカーのようにボタンで高度を打ち分けられる攻撃は上中下と呼ぶ人が残っているかも知れません。いや、ボタンで通じるから呼ばないだろと言われれば、それはそう。

ストリートファイターベースのゲームは、原則「しゃがんでいれば当たらない」攻撃は技固有の弱点とするにとどまり、システムレベルまでは組み込まなかったんですね。もちろん、「格闘ゲーム」という広い分類で見れば、3D格闘ゲームやMortal Kombat のような攻撃の上中下をシステマチックに分類しているゲームも存在するんですが、今君たちがやり玉に上げようとしているゲームって基本的に高度で分類してないんだから、そもそも初心者相手に高度の話をすること自体がおかしいよね、という話ですね。

もし、僕は初心者です! という人が読んでいるなら2D格闘ゲームの上中下段を高度に絡めて覚えるのはやめてください。虚心坦懐にゲームに向き合うのです。

2D格闘ゲームのガード分類史

じゃあ、日本の2D格闘ゲームが上段下段で何を示しているかといえば、その攻撃を防げるガードの対応についての話なんですね。下段は低い位置を防御するしゃがみガードのみ防御できる一方、中段は逆に高い位置を防ぐ立ちガードでしか防げません。どちらでも防御できる攻撃は上段と呼ばれます。

繰り返しますが、当たる位置は関係ありません。地面すれすれを飛んでいようが歳破衝は上段です。立ったままガードできます。

では、なぜこんな呼び名になったのか。

これは2D格闘ゲームの源流、ストリートファイターIIが地上攻撃をシステム上で「しゃがみガードのみできる攻撃」と「立ち・しゃがみ両方でガードできる」攻撃という二軸に分類したことに端を発します。ここで「低い位置への攻撃だから立ちガードができない」という説明用の理屈がついたことで自然と下段攻撃となり、下段でない攻撃は自然高い位置への攻撃と見做されて上段となりました。

▲図1.格闘ゲーム初期の攻撃分類

なお、この時点でもう空中攻撃はしゃがみガード不能でした。が、特段、上段にも下段にも組み込まれていませんでした。ジャンプ攻撃はその性質上、まず最初に地上攻撃とは分別されるタイプのものになります。出すタイミングによってヒットさせる位置もある程度は制御できますし、相手にぶつけるタイミングが違えば着地のタイミングも違うので硬直なども一概には言えません。有利不利も多少変動してしまうのです。

▲参考:CAPCOM公式、EDフレーム表より

これは2D格闘ゲームを理解する上においては重要な考え方であり、遊んでいる人間は言語化できていないまでも、なんとなくは理解していることではあります。そうでなくても、まともな人に教われば、飛び込みは低く当てたほうがいいぐらいはすぐに教わるし、コツ! みたいなページにも書いてあるでしょうに。だから、この情報化社会でここを意識してない記事が二年経って再生産されるの本当に不思議なんだよな……

さて、全体のレベルが低くて格闘ゲームというものの理解が進んでいなかったころは、初期のガード対応でも十分だったんですが、プレイヤー側が慣れて難しい操作も楽々こなすようになってくると一つの問題が浮上します。

それが「待ち」です。この時点では、地上攻撃はすべて下段ガードで対応ができました。空中攻撃はしゃがみガード不能だよ、とは言うものの、ジャンプという予備動作が必要な以上、地上から即座に出せる攻撃と比べるとどうしても対応の難易度は下がりがち。まして、初期の初期は放物線軌道すら変えられない訳で、不用意なジャンプは対空技の餌食になってしまいます。特にガイルなんかはしゃがんでいることで、サマーソルトキックが準備できている訳ですからね。待ちガイル、これは手強いですよ……!

まあ、ガイル少佐は極端な例にせよ、ジャンプ攻撃に代わるしゃがみガードを破る手段というものが求められるのは必然ではありました。こうして、人々に(多分)望まれて生まれたのが上段でもない、下段でもない不思議な攻撃――そう、中段攻撃です。

これによって2D格闘ゲームの攻撃分類図はこうなりました。

▲図2.中段攻撃を導入せり

この「空中攻撃と同じガード対応」の攻撃の登場により、中段という新たなガード分類用語が生まれ、従来から存在していた空中攻撃という下段ガード不能攻撃も「なんや、君もしゃがみガードをすり抜けて攻撃できるんか? ほな、中段組の一員やな!」と盃を交わした結果が今日の「空中攻撃 is 中段」という風潮であります。

まあつまり、狭義の中段攻撃はジャンプ攻撃を指す言葉じゃないんですよ。

Overhead はジャンプ攻撃を含まんし、位置も低いのでは?

現時点でも中段(攻撃)と言った時に中段属性全般のことではなく、地上中段技を指しているという場面は多々あります。スト6で「モダン〇〇は中段がないからなー……」って言っている人は多数いますが、別にモダン操作は地面に足を縫い付けられていてジャンプできないワケではありません。クラシック操作だと出す事のできる地上中段技を出すことができないという嘆きの言葉ですよね。

これは海外のOverhead 攻撃でも同じです。

Overhead - Street Fighter Wiki

Not every fighter character possesses an overhead unique attack, nor does every fighter possess an overhead special attack; however, most characters possess at least one or the other, and every character can also perform a jumping attack, which will also bypass a low block.

持っていないキャラクターがいないワケではないが、それでも、最低限ジャンプ攻撃はしゃがみガードを崩せるよ。といった具合の意味であり、なおかつ、ジャンプやジャンプ攻撃を持たないプレイ可能なキャラクターがほとんどいなかった歴史を考えれば、このWikiの編集者たちは狭義のOverhead にジャンプ攻撃を含んでいないのは確定的に明らかですよね。

そもそも、中段攻撃にせよ、ジャンプ攻撃にせよ、機能的にはしゃがみガードで固まっている相手にぶつける必要があるわけで攻撃位置はある程度低くなるはずなんですよ。地面に足をつけた状態で相手の頭上位置を取っている、すなわち、しゃがんでいる相手の頭上から攻撃をするという意味合いでOverhead Attacks と呼ばれているのであって、立ち上がっているファイターの頭や、その上を狙う攻撃かのように表現するのは実態にそぐいません。

「どうしてグラブルのオーバーヘッド攻撃は頭上と高い位置を攻撃するはずなのに、しゃがんでいる相手にもヒットするの?」って話だろ。そこが気にならないんなら「ジャンプ攻撃は高い位置への攻撃だから上段じゃないの?」は難癖以外の何者でもねえだろうが。

ちなみに、Mortal Kombat 11 では上りジャンプ攻撃はオーバーヘッド判定にならないように調整されているらしく、上りで出した場合はHigh(上段)攻撃ではなくMid(中段)攻撃らしいです。

Mortal Kombat 11/Offense - SuperCombo Wiki

On the way up, Jump Attacks are mid attacks and are overhead attacks if inputted on their way down.

空中攻撃なんて自分がいる高度、攻撃の姿勢などから、相手のどこにぶつかるかなんてコロコロ変わるんだから、全体で見たとき攻撃位置が高い/低いなんて一概に言えるはずがなく、システム的には立ちにもしゃがみにも当たるMidになるのはごく自然なことですね。

まあ、最近の2D格闘ゲームは複雑ですからね

彼らの名誉のために言っておくならば、最近の2D格闘ゲームは昔ほど単純じゃありません。こういうモーションは中段かな? とか、こんなに低い位置なんだからしゃがみじゃないとガードできないでしょ! っていう暗黙の了解とゲームの面白さは天秤にかけられ、面白くするための設定がなされているなと感じることが増えました。

先ほど引用したOverhead 攻撃のページにもある通り、中段攻撃は「attacking downwards(下向きの攻撃)」が特徴の一つです。リュウの鎖骨割り、ケンの紫電カカト落としも上から下へ拳を突き下ろす、カカトを振り下ろすタイプの攻撃となっています。これはジャンプ攻撃も同様で、高い位置から重力に引かれて自由落下で降りてくるキャラクターにぶつかれば、少なからず下向きの力がかかっていますからね。ちゃんと勢いが付く前の高い位置でないと受け止めるのは難しい。ような気がしないでもない。

でも、キャミィのキャノンストライクは上段なんですよね。降りるとまで揶揄される軌道にもかかわらず。これで、キャミィのジャンプ攻撃が全部上段で「彼女は小柄で身体が軽いので自分の重みでも相手のしゃがみガードは崩せません!」だったらわかりますが、別にそんなことはありません。むしろ、勢いついている分だけ、キャノンストライクのほうが打撃としては重たいのでは?

……じゃあ、あなたはキャノンストライク中段のゲームがやりたいんですか? って話ですよ。これは。本当にいいんですね?

というわけで、現代のゲームを図に示すならこうです。

▲図3.空中から下段も出る時代

先に例を上げた歳破衝もそうですが、バカ正直に攻撃位置をそのままガードに対応させていると遊戯としては都合の悪いことになることがままあります。それに、中段攻撃だからこう! という固定観念も邪魔になることがあります。例えば、ギルティギアはダストを打ち下ろしに限定していません。というか、打ち上げるよな。どちらかといえば。

これは、格闘ゲームのガード周りの攻防を「出された攻撃に対して正しいガードを選択できるかゲーム」と考えた場合、視認性や性能に問題がなければモーションはどうでもいいという話でもあります。別に見た目はローキックでもいいんですよ。2D格闘ゲームのローキックモーションで繰り出される中段は十中八九性能面で問題あることを除けば。

このへんはもう、良い格闘ゲームとは? みたいな話になるので、それを書くにはこの記事は長くなりすぎたし、余白が少なすぎるのであります。

というか、まともな頭があればわかるよな?

まあ、ここまでグダグダ書きましたが、実はあの記事の途中で出てくるベン図もどきをもうちょっと真剣にいじってればわかることだと思うんですよね。

ベン図は二つの集合の関係を表現するものであり、上段ガード可能な攻撃を示す領域と下段ガード可能な攻撃が重なり合う攻撃を示す領域が重なり合う位置をなんと呼ぶか? といえば「上段攻撃」なのは間違い無い。ただ、関係を表すものであって位置を示す図じゃないのでキャラクターの立ち姿に重ねるのは全くの無意味なんですよ。だから、その無意味な図を出しながら「なんでこんな高いの?」みたいな疑問自体が無意味なんですよ。

例えば野球ではバッティングに左右の区別があり、右打ち・左打ちに分けられます。これは利き手のみならず身体全体の問題であり、右投げだから右打ちとは限りません。とはいえ、どちらの打席でも遜色なく打てます! みたいな人は少ない。図にするとこう。

▲左の集団は左打ち、右の集団は右打ち

まあ、ベン図で表すのが本当に正しいのか? みたいな部分を除けば、間違ってはいません。これを野球の打席に重ね合わせると、こう!

▲そうはならんやろ

何が問題なのかよくわからない……という人は大谷翔平選手が左バッターであるということを思い出してください。これを「バッターの後ろから見た図に重ねるのがおかしい!」と思っている方はスイッチヒッターだった金城選手がホームベース上でバット構えないことを思い出してほしい。ベン図は位置を示すために使うもんじゃねえんだ。

お前、その図をしゃがんでるビカラ? とやらに重ね合わせたとき、オーバーヘッド攻撃の矢印がキャラクターの頭上はるか上、虚空に伸びてることに疑問はなかったんか? オーバーヘッド攻撃はこんな高い位置に攻撃してるはずなのに、なんで俺はしゃがみガードを崩すための手段として使ってるんだ? とは思わなかったんですかね。

むしろ、そのゲームではジャンプ攻撃を当てるときは「できるだけ低い位置で当てたほうが次の地上攻撃がつなぎやすい」みたいな理論は出てこないんですか? 今のところ、2D格闘ゲームは大体、そういうルールでやってると思いますけど。

まあ、攻撃モーション途中で着地したらバランスを崩すとか、そういうゲーム性なら仕方ないんですけど、こういう主流とは異なる独自性の強いルールのゲームなのに、そこに触れないあま入門にオススメとはどういう了見なんですか?

初心者相手だからってそんなアコギなやり方があるかよ。適当こくのも大概にせえよ。