スマッシュブラザーズSPECIALを未だに買っていません。かつてはあれだけ楽しみにしていたゲームなのですが、時の流れは残酷なものです。理由を聞かれるとSwitchを持っていないからであり、なぜSwitchを持っていないのかと言えば、買うだけのお金がないからです。いろんなことにお金を吸われすぎてSwitchにお金を回せないのです。辛い。
それはさておき、発売当初の盛り上がりを指を咥えて……はいなかったけど、眺めているとどうやら「スマブラは難しい。クソゲー」という勢力が存在したようです。
そうだろう、そうだろう。スマブラは難しいのだよ。君ぃ。
俺がスマブラの話を始めるならスマブラ拳は外せません。他の方はどうあれ、俺とスマブラの出会いは本屋で見かけたスマブラ拳(書籍版)だからです。
スマブラ拳とは文字通り企画者がゲームを真面目に攻略したサイトであり、それらを書籍として再編したものが書籍版であります。このスマブラ拳発足の経緯は、確か本家サイトにも書いてあるとは思いますが、スマブラというゲームに触れた人たちがより楽しめるようにと、やや特異なゲーム性と攻略情報を開示しようとスタートしています。
そう。今でこそ、ゲームのジャンルと見紛わんばかりに立派になったスマッシュブラザーズですが、発売当初は対戦アクションゲームの中では異質な存在でした。当時から現在に至るまで、多数のゲームは「耐久力」を数値として持ち、それを失ったら敗北というルールです。スマッシュブラザーズはその制度を見直し、攻撃によってダメージは蓄積するものの、勝敗の要因は場外に落ちたか否かによります。極端な話、カンストするほどのダメージを受けても、場外に落ちなければ敗北しません。
ならば、なんの為にダメージを与えるのかと言えば、相手を場外に吹き飛ばす為。ダメージの蓄積は攻撃を受けた際の吹っ飛びやすさに影響し、ダメージが蓄積されるほど攻撃を受けた際に大きく吹っ飛ぶようになります。なので、基本的な戦略としては相手に攻撃を出してダメージを与えていき、吹っ飛びやすくなったところで相手を吹き飛ばす攻撃を当てて場外に押し出すというものになります。
なので、当てやすいが吹き飛ばし力の弱い攻撃をどれだけ当てても勝つことはできず、逆にダメージをそこまでもらっていなくても、十分な吹き飛ばし力の強い攻撃――スマッシュ攻撃とか――を食らってしまえば敗北します。難しいと言っていた人たちがどこで躓いていたのかは定かではない訳ですが、もしこの基本的なフレームワークを理解していかったとすれば楽しむことも覚束ないのも無理からぬことです。
このダメージ蓄積によって相手のリアクションが変動することと、ランダムにアイテムが降ってくることの2つのゆらぎは当時既に記憶偏重になりつつあった格闘ゲーム界に対する一つの回答でした。結局、体育会系の格闘ゲーマー達によって終点・アイテムなしとかいう、ゆらぎを排除したルールが作られています。まあ、そんなもんだよね。
現状のゲームシーンはどうあれ、当時のスマブラが好意的に受け止められていたのは事実であり、ゲーム小僧たちの間では知らぬ者のいないゲームでした。
実際問題、ダメージを与える技とフィニッシュする技を分化するというアプローチはよくできており、スマブラの基本ルールにおいては格闘ゲームでありがちな「スネを殴られた大男が悲鳴を上げながら倒れる」とか「くるぶしを蹴られたイケメンがぶっ倒れる」という間抜けな絵面は起こりえません。コンボのつなぎの技で相手の体力がなくなってしまったり、急に差し込まれた下段がガードできずに食らって負けたりというのは、格闘ゲーム的には仕方ない部分であり、相手の体力を削りきれば勝利なので、補正だなんだが込み込みで削りきれればどんな技でもフィニッシャーになりえます。しかしながら、スマブラではある程度の吹き飛ばし力のある攻撃でなければフィニッシャーになりえません。それ相応の説得力のある攻撃を当てなければ勝利できません。
……いやまあ、ステージに復帰しようとした相手を妨害して阻止するというパターンがあるにはあります。それも空中挙動を妨害して奈落に落としているので説得力としてはそれなりでしょう。多分。
逆に言えば、小技を駆使してダメージを蓄積させても、最後のフィニッシュブローを誰かに持っていかれてはポイントは稼げないということです。せっかくダメージを与えたのに、最後の最後だけ別の相手に持っていかれることもあるでしょう。臆病者のハイエナ野郎が蔓延ると感じるかも知れません。ハイエナ一匹まともに倒せない我々には厳しい世の中です。
しかしながら、たとえダメージを蓄積できない初心者であっても、他人がダメージを与えた相手にラッキーパンチが入ればポイントを取れるという意味でもあり、相手の防御をかいくぐって攻撃をねじ込み、その上で倒さなければならないというマッチョさが求められていないことを意味します。力関係、戦力情勢を見極め、今この瞬間に誰を相手取り、誰を狙うかの判断ができれば、スマブラはポイントを稼げるゲームでした。
スマブラが格闘ゲームより優しいとされる部分はまさにここであり、その一方で、体育会系ゲーマーが躍起になって取り除こうとした部分であります。スマブラは対戦ゲームであり、この構造の土台部分を理解せずにガムシャラに突っ込むだけで楽しめるほど簡単ではありません。ましてや、体育会系の提唱するルールはダイレクトに操作技術が反映されるため、間口が狭くて楽しむことなど出来るはずもありません。
結局、スマブラにフォロワーは現れませんでした。今に至るまでスマブラの後継的な作品はスマブラしかいません。オールスターであったり、平面画面での四人対戦という近似したスタイルのゲームは多数あれど、そのゲームはいずれも攻撃を当てられずんば戦士にあらずというマッチョイズムから抜け出せていません。このスパルタンな思想の下では、たとえどんなにビジュアルをカジュアルに寄せようと、プレイフィールはカジュアルには程遠いものにならざるを得ません。
カジュアルなプレイフィールと技量に相関する勝敗の勾配。そして、この2つを併せ持つスマッシュブラザーズの魅力。たとえ初心者が参入は難しいと感じとろうとも、しばらくは人々を引きつけるゲームとして君臨し続けるのでしょう。
もはや、落伍者となってしまいましたが、これからも生暖かい視線で見守っていきたいと思います。