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2019年1月20日日曜日

ヒトはいかにして人を生み出すのか

虚木零児です。

皆さん、好きですか? 擬人化。
僕は嫌いではありません。でも、好きというほどでもありません。否定はしませんが、積極的に肯定もしない感じです。世の中そんなもんですよね。

とはいえ、世の中にはいろんな擬人化作品が存在しますね。国家、OS、銃、軍艦、刀剣、動物、あるいはSNSサービスなどなど。商業として成功を収めているものもあれば、一部ファンが盛り上がっているものなどいろいろです。

今回は、艦隊これくしょん-艦これ-、けものフレンズという2作品を中心に、擬人化作品について思い出話をしようと思います。うぽって!!もあるよ。

●うぽって!!から見る擬人化の基礎

君は「うぽって!!」を知っているか! え、ご存じない? そうですか。

逆から読むと鉄砲になるタイトルからもおわかりいただける通り、「うぽって!!」は銃を擬人化したキャラクターたちが活躍する漫画作品です。作者は天王寺キツネさん。2012年にはTVアニメも放映されました。押しも押されもせぬ人気コンテンツですね。

うぽって!!は擬人化作品の中では割とスタンダードな「題材になった物の特徴が擬人化キャラクタの人格の基礎になっている」スタイル。例えば、登場人物の一人「いちろく」はM16A4というアサルトライフルがベースなのですが、3点バースト機構を採用している(=フルオート機構を持たない)点を踏まえて全力が持続せず途切れる人物となっています。他にはL85A1を造形ベースに持つ「える」がおりますが、彼女は構造上弾詰まりが発生しやすかったベース銃の弱点を頻繁に腹痛を起こすという形で取り入れています。ちなみに、主人公格の「ふんこ(FNC)」の下着がTバックなのは、モデル銃がスケルトンストックだから。うーん、なるほど……?

とまあ、このようにうぽって!!のキャラクターの造形(外見はもちろん、内面的なものも含めて)はそれなりの割合で実在する銃の特徴、あるいは欠陥をモチーフにしています。こうやって、モチーフを人間に置き換えることで題材を知らない人たちは身近に感じることができ、題材に詳しい人達はその解釈についてああだこうだと語らうことができる。擬人化作品で多くの人が盛り上がることができるのはこういったからくりがあるのでしょう。
……多分。

●艦これからみる擬人化の奥行き

さて、擬人化作品の基本的な形を確認したところで、艦これに話を移しましょう。念の為、解説をしておくと、「艦隊これくしょん-艦これ-」は2013年に登場した、艦娘と呼ばれる、軍艦の魂を宿した女性たちを集めて艦隊を編成し、資源をやりくりしながら深海棲艦たちとの戦いを繰り広げるゲームであります。2015年にはTVアニメが、翌2016年には劇場アニメが放映されましたね。押しも押されもせぬ人気コンテンツですね。

うぽって!!と艦これを比較してみると、うぽって!!の方が「ある銃のモデル」を擬人化しているのに対し、艦これはもう一歩踏み込んで「実在した艦」を擬人化していることが解ると思います。具体的にはふんこがFNCというライフルのモデルとしての記憶しかもたず、実銃としての経歴を持たないのに対し、吹雪ちゃんはかつて存在した駆逐艦・吹雪が人格を持ったものであるかのように振る舞い、軍艦時代のエピソードを抱えていて、それらを踏まえた人格形成がなされています。

これはうぽって!!が下手をこいたという訳ではなく、選択した題材による必然的な差であると考えます。銃はあくまで工場で大量に生産される製品ですが、軍艦は型という括りこそあれど、それぞれがワンオフです。各地に散らばっていた銃にもドラマやエピソードが付随しているでしょうが、それらをすべて拾い上げるためには一丁一丁をキャラクターとして形作る必要があると言えるでしょう。例えば、とある兵士が長年ともに過ごしてきた銃がある日突然、かわいい女の子になったら? みたいな。……探せば普通にありそうですね。
ともあれ、うぽって!!の取り上げ方ではその型の共通の特徴やエピソードなどが限界になってしまい、各々が歩んできた道のりとかそういうアプローチは困難になってしまうというのが実情でしょう。

一方の艦これは題材が軍艦であるがゆえに、うぽって!!と違って一隻一隻のドラマにスポットを当てることができました。経験や苦い思い出からそれをバネにするキャラクターであったり、かつての共闘を理由に現在も仲がよいであったりと、概念の擬人化と比較すると、エピソードに立脚したキャラクター形成という、より人間的な描写を取ることができているというわけです。

このあたりが、他の擬人化作品よりも艦これが刺激的だった部分なのかなあと今となってはぼんやりと思います。

●けものフレンズと擬人化の意味

さて、艦これを通じて「題材になった物の経歴やエピソードにスポットを当てる」という手法に触れたところで、けものフレンズに話を移行させましょう。

けものフレンズは様々なメディアを通じて展開される複合プロジェクトであり、手始めに2015年にネクソンよりアプリゲームが展開、翌2016年サービス終了。その翌年、2017年にTVアニメが放映され、ここで脚光を浴びたことで一躍有名コンテンツとして名を知られるまでになりました。今や、押しも押されもせぬ人気コンテンツですね。

けものフレンズ自体はスタイルはうぽって!!に近く、動物たちの特徴や特性をキャラクター形成の中核としているタイプで、艦これのようなエピソード軸は希薄です。各々のキャラクターが生活する中で、のんびりしているとかドジという属性が付与されているきらいはあるものの、動物時代の経験などを引きずっている気配ありません。

けものフレンズの特性は「フレンズ」というワードを軸とした、「なぜ彼女らは人となったのか」にスポットを当てた描写です。けものフレンズにおいて、艦これで言うところの艦娘に当たるワードはネクソンアプリ版当時は「アニマルガール」などの呼び名があったものの、アニメ以降では「フレンズ」へと統一されました。まあ、ネクソンアプリの頃は仲良くなって友達になるという過程がある以上、仲良くなった結果の「フレンズ」と動物たちが人の姿を持った「アニマルガール」とを区別する必要があったのかも知れません。アニメ以降は区別する必要がなくなった。とか。
理由はともあれ、単語の印象だけで考えれば「君はどんな動物を題材にしたキャラクターなの?」という意味の問いかけならば「君は何のフレンズ?」よりは「君は何のアニマルガール?」の方が自然な気がしますが、徹底的に〇〇のフレンズとしか呼ばれません。

そう。彼女らは友達(フレンズ)なのです。

けものフレンズに登場するフレンズたちは他の擬人化作品同様、モデルとなった動物たちの特性を備えていますが、必ずしも特性を網羅している訳ではありません。例えば一期アニメの第一話に登場したカバは水辺に近づいたサーバルとカバンを暖かく歓迎しました。しかし、実際はカバの水場に近づくことは非常に危険な行為です。なぜならばカバは身体が大きい上に気性が荒い危険な動物だからです。年間の死者数を比較したとき、見るからに獰猛な印象のある肉食獣よりもカバによる死者の数が多かったこともあるほどです。

ではなぜカバのフレンズはおとなしかったのかといえば、フレンズだからです。彼女らは人間的な身体を得、発話能力を手に入れたことで種族を超えた友愛を結び合うことを可能としたのです。二期アニメの第一話にてカルガモのフレンズが偽傷行為(傷を負って飛べないふりをして襲撃者の気を引き、巣や子供から遠ざける行為)でセルリアンの注意を引いたのも、フレンズだからです。しかも、本来であれば偽傷で欺かれるべきカラカルやサーバルを守るためですからね。感動的じゃないですか。

まあ、それに引き換え俺たち人間は……という話でもあるのですが、そのあたりに踏み込むと悲しい気持ちになるのでここいらで終わりとしましょうか。

●まとめ

今回は3つの作品の思い出を語りました。ある概念を人型のキャラクターとして落とし込むことに始まり、取り巻くエピソードからキャラクターが造形されるようになり、ついには人になったことで何ができるのかに注目されるまでに至りました。

この先、擬人化コンテツはどのような境地へと向かうのでしょうか。これからも見守っていきたいところですね。